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プロダクトデザイナーのデザイン思考ノート

道具論 / 榮久庵憲司

「道具は道の具え、と書かれている。道の具わりたるを、道具というのか。」

榮久庵憲司氏は、その著書、道具論にそう書き記しています。

身の回りの「具」を「ぐ」ではなく「そなえ」と読んでみることで、日常の世界が大きく深く広がっていくのを感じます。

道とは、そもそも道路のことを指していました。

しかし、もともとは道路を意味していた「道」という概念が、荘子学派により、人生の目標に到達する道程、方法へと抽象化されていきます。

中国では、抽象概念として道路の類比として成立した「道」の修道に具える、道具という熟語はもっぱら仏道において用いられた。

もとは五具足、というように仏道の修道に具えられたるものを具といった。

仏道の道と、その具えとがひとつになって道具となったのである。

日本では、仏道の具え=道具の語は、たちまち諸々の道の具へと応用される。茶道の具えが茶道具、というように。

○○道具、例えば、大工道具を、大工/道具という認識で分割をしていなかったか。

確かに、「大工」と「道具」というそれぞれが熟語として強く定着しているので、その分割の仕方に、私自身全く違和感なく暮らしてきたわけです。

試しに、大工道/具という分割線の引き方で改めて大工道具を捉え直すとどうでしょうか。

大工道の具わりたるを大工道具、ということになります。

料理道の具わりたるを料理道具、ということになります。

認識の分割線の引きどころを1文字ずらす。

たったそれだけで、モノが小さな世界から解放され、未知なる無限の世界観をかたちづくってしまうような、そんな感じがしています。

道の具わりたる道具を敬する、職人と呼ばれる方々の、仕事道具に対する感覚がわかります。

日本の料理人は庖丁づかい、料理することを料理道、ないし庖丁道として捉えている。

庖丁は文字どおり道の具えであるから、日本の料理人は自分の庖丁を持つ。

自分で研ぎ、手入れをして大事にしている。

道具を敬して自己実現を遂げているのである。

日本の、日本の、と断りを入れているのは、西洋の料理人には、庖丁へのこだわりは無いのである。たとえばフランスでは、三ツ星級レストランの厨房でも、研ぎ屋がまわってくると庖丁を束にして渡す。

研いであればいいのであって、どれが誰の庖丁ということはない。

もちろん西洋料理と日本料理では庖丁づかいがおおいにちがう。

日本料理では庖丁わざが問われる。

けれども自分の庖丁をもち、それを命とまで敬することとは別の事柄である。

道具を尊敬し、敬意をもって扱う、という精神があるか無いか、の問題であって、日本の料理人は庖丁を敬することのできる人たちなのである。

フランス料理は技術であって、日本料理は道であり、庖丁は料理道の具え、道具、なのである。

何故日本人は道具を尊敬し、敬意をもって扱うことができるのか。

何故西洋にはそういった感覚が芽生えることがなかったのか。

その答えは、「道具」の「道」に隠されています。

一部引用しますが、詳しくは、内田樹氏の日本辺境論を併せて読むことで、知ることができるはずです。

「道」は教育方法としては卓越した装置であるが、それは、(誰も見たことのない)「目的地」を絶対化するあまり、おのれの未熟、未完成を正当化してもいる。

つまり、「わたし」は未熟、未完成であり、「目的地」へと続く道を具えたる道具に対し、常に「わたし」<「道具」という関係が成り立つというわけです。

日本人は、道具が「わたし」を「目的地」へと導いてくれる、という捉え方をしていた。

だから、道具が敬意をもって扱うべきモノとなったのではないでしょうか。

〜用品とは言えど、〜道品とは決して言わないことが、用具とは違い、道具をただの品物としては捉えていないことの現れでもあるという気がします。

道具という言葉があてはまるモノは、総じて、直接的であり、使用者とのインタラクションが強いと言えます。

良くも悪くも、使い手の意思と能力をそのままのかたちで引き出してくれるのが道具であり、各々の道を作り出し、遥か先の「目的地」へと導いてくれる存在なのでしょう。

面白いことに、道を外れた使い方をすることは、文字通り、道を外れたモノになるようです。

道を外れた使い方をした武道具は武具、武器へ。

望ましい使い方を続けることで、モノは人に生き方を与えてくれる気がします。

兵器にいたっては、「兵具」という言葉はありますが、ほとんど耳にする機会はありません。

「道」には程遠く、非人道的なあり方でしか、存在し得ないことの証明のように思います。

願わくば、私自身の使うモノが、「仕事道具」と呼べるモノであってほしいし、そういう使い方をしていけたら幸いです。

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