破壊的イノベーションを持続的にする—のりしろづくりが上手かったApple—

ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセンは、イノベーションモデルには、「持続的イノベーション」「破壊的イノベーション」の二種類があるとしました。
Appleのイノベーションの話を書きたいのですが、その前にこのクリステンセンの概念の説明から入ります。
- 持続的イノベーション
持続的イノベーションとは、製品・サービス・技術の性能向上を伴うイノベーションのことで、これには漸進的なものから抜本的なものまで様々なものがありますが、一貫して言えるのは主要市場のメイン顧客が今まで評価してきた性能指標にしたがって、既存製品の性能を向上させるということです。
ゲーム機やPCの性能がどれだけ急激に伸びても、それがどれだけ技術的に高度なものであっても、既存の顧客が評価してきた性能指標におけるイノベーションという意味では、それは持続的イノベーションにあたります。
- 破壊的イノベーション
主要市場が評価する性能向上を行う持続的イノベーションに対し、破壊的イノベーションはこれまでとはまったく異なる価値基準を市場にもたらします。
既存の製品に比べて性能が低いながら、低価格・単純・小型・使い勝手がよい場合が多く、既存市場の顧客とは別の顧客から支持されるという特徴を持ちます。
確立された技術やビジネスモデルによって形成された既存市場の秩序を乱し、業界構造を劇的に変化させてしまうことが「破壊的」と呼ばれる所以です。
破壊的イノベーションを具体的に捉えるならば、最近ではNintendo DSやWiiの成功事例がわかりやすいと思います。
勿論、iPod以降の様々なApple製品もこれに該当する事例です。
Appleがかつての最強企業として君臨したMicrosoftを追い抜くまでに至ったのは、破壊的製品を次々と世の中に出していったからに他なりません。
クリステンセンの研究によれば、確立された市場での新規参入企業の成功率はわずか6%に過ぎませんが、破壊的イノベーションをリードした新規参入企業の成功率は37%まで跳ね上がります。
任天堂が「SonyのPSより高性能な製品を!」とか、Appleが「Windowsより良いOSを!」とやっていたならば、今ほどの成功はなかったかもしれません。
「よりよいものづくり(既存製品より)」というスローガンは暗に持続的であることを意識づけるので、既に市場のリーダーとなっている企業が安定飛行に入るには欠かせませんが、挑戦者として最強企業に挑む体制を築くのであれば捨て去るべきだと思います。
持続的イノベーションは実績ある企業の十八番なので、その土俵で戦いを挑んでも敗北が待っています。
それにしてもAppleは、なぜここまで破壊的イノベーションの高速普及を次々と成功させているのでしょうか。
- 新しいモノと古いモノののりしろ
前回のエントリ「DJのプレイスタイルに関するイノベーション普及考」で、イノベーションの普及には「のりしろ」を考えないといけないと書きました。
Appleの快進撃にはこの「のりしろ作り」の上手さがあるのだと思います。
まず、Appleは、iTunes, iPod, iTunes Music Storeつまり、ソフト、ハード、サービスの三位一体により大成功を納めました。
この流れでAppleが作ったのりしろは、Macユーザーがもともと使っていたiTunesをiPodののりしろにしたことで、PCで楽曲管理するという手間を最小限に抑えたこと。
そしてiTunes Music Storeに関しても、既にiTunes+iPodを使っていたユーザーに新たに何かを導入する手間を取らせなかったことだと言えます。
iPodのUIは秀逸であり、成功を後押ししましたが、それと同じかそれ以上に重要な役割を果たしたのはiTunes Music Storeです。
Appleは楽曲のダウンロードを簡単、便利、低価格にするということを成し遂げました。
実はこれこそが真の破壊的イノベーションであって、iPodの大成功は iTunes Music Store があってこそ成立したと思います。
少なくとも、日本でiPodが騒がれ出したのは、iTunes Music Storeのサービス開始後だったと記憶しています。
iTunes Music Store とiPodはジレットの「剃刀と替え刃」や「プリンタとインクカートリッジ」という有名なビジネスモデルの真逆をやってのけ、低い利益率に甘んじてでも楽曲を安価に提供することで利益率の高いiPodの購買客を囲い込み、売り上げを伸ばしました。
そして現在iPadがバカ売れしているのは、過去にiPod Touch, iPhoneの投入があったからこそだと思います。
iPad時点から過去を振り返ると、iPod Touch, iPhoneは全く新しい製品とユーザーとののりしろとして機能しています。
iPadを買う気にさせたのは、iPhoneやiPod Touchでハードウェアキーのないタッチインターフェースが使いづらいものではないということを多くの人々に経験させていたことが大きく効いているはずです。
iPadは、でっかいiPhoneであり、でっかいiPod Touchだと思えばいいからです。
この流れで逆を辿れば、iPhoneは電話もできるiPod Touchであり、iPod Touchはタッチ操作のiPodです。
人間は新しいモノを、古いモノの枠組みで捉えようとします。
そうしなければ理解不能なのでとても受け入れられるものではありません。
自動車が登場した時、それは「馬なし馬車」と見なされました。
「動く写真」も似たようなものです。
全く新しいモノを古いモノの枠組みで捉えやすくすること。
これはイノベーションの普及に欠かせないことです。
本当かどうかは分かりませんが、ジョブズはCEO復帰時にロードマップをつくり、今はただそのロードマップ通りに製品を市場に送り出しているに過ぎないなんて話を見たことがあります。
iPodの成功をベースに、単独で見れば破壊的なイノベーションを自社にとって、ユーザーにとってなるべく持続的な位置づけに持っていくことでその普及力を最大化するジョブズの計画性と手腕は信じられないものがあります。






コメント&トラックバック
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Appleが破壊的イノベーションを続けられるのは、実質ジョブスの独裁企業だからかも知れんね。というわけで、ジョブス亡き後のAppleがどうなるか楽しみ。
ところで、小職も先日Macbook買っちゃった。時間があったら使い方を教えてくらはい。
2010 年 7 月 18 日 6:44 PM posted by magozaemon
>>magozaemon
>Appleが破壊的イノベーションを続けられるのは、
>実質ジョブスの独裁企業だからかも知れんね。
>というわけで、ジョブス亡き後のAppleがどうなるか楽しみ。
同意。意思決定は創業者が独断で行い、失敗したらそれまでっていう昔ながらのやりかたが盛り返してきてるのが面白いところ。後継者が育つかどうかは一番大きい問題だろうね。
>ところで、小職も先日Macbook買っちゃった。
>時間があったら使い方を教えてくらはい。
とうとう乗り換えたか〜了解!
2010 年 7 月 18 日 7:07 PM posted by shimano
>>shimano
>とうとう乗り換えたか〜了解!
乗り換えてませんw
仕事はvaio、エンターテイメントをMacという、マカーの風上にも置けない使い方してますw
MacでMicrosoft Officeってねぇ、なーんか違和感感じるよね。
2010 年 7 月 19 日 2:37 AM posted by magozaemon
>>magozaemon
違和感消すならiWork推奨。ただ、エンタメ用ならほぼ使い道ないこと覚悟で 笑
2010 年 7 月 19 日 3:16 PM posted by shimano